Q&A

宇宙太陽発電衛星にまつわる様々な疑問と回答を紹介します。

宇宙太陽発電に関する技術的な質問

Q1. 宇宙太陽発電で得たエネルギーの何割が、実用可能な電力になるのですか?
Q2. どんな太陽電池が使われているのですか?
Q3. 地球の表面を雲などが覆っている場合、マイクロ波は地表に届くのですか?

宇宙太陽発電と社会・経済に関する質問

Q1. 宇宙太陽発電衛星が実現したら、衛星の管理はどの国がおこなうのですか?
Q2. 現在、宇宙太陽発電の研究に取り組んでいる国はどれくらいあるのですか?
Q3. 有人でスタッフが宇宙太陽発電衛星に常駐する必要はあるのですか?
Q4. その他の発電による電気との使用コストの差はどのくらいですか?
Q5. 国から補助金を出して、できるだけ(地上に)太陽光パネルを設置すれば、そこまで宇宙太陽光発電に頼りすぎなくてもやっていけるのではないですか?

宇宙太陽発電のリスクや懸念

Q1. 隕石や宇宙ゴミ(スペースデブリ)が、ぶつかる可能性ありますか?ぶつかった場合、発電できなくなりますか?
Q2. 部品などが壊れた場合、どのようにして修理・回収するのですか?マイクロ波をいろいろな方向にだすように壊れる可能性がある場合、近寄って回収することが困難になりませんか?
Q3. 受電アンテナの立ち入り禁止区域でのマイクロ波の強さはどの程度になるのですか?海上にアンテナを作る場合、漁業への影響は考えられますか?
Q4. バスや電車の中では携帯電話は切るように言われますが、マイクロ波によって心臓病の人への被害があるのではないですか?
Q5. 渡り鳥などは地球磁場を使って飛行しているのがラジオ派によって妨げられてしまうという話がありますが、マイクロ波を伝搬することの自然界への影響はどのように研究がされていますか?

宇宙太陽発電に関する技術的な質問

Q1. 宇宙太陽発電で得たエネルギーの何割が、実用可能な電力になるのですか?

A1. 宇宙太陽発電では、宇宙から地上へのエネルギー伝送に加えて、主に3つのエネルギー変換が行われます。最新の研究から伝送効率および各々の変換効率は以下のようになります。

  • 衛星での太陽光から電気エネルギーへの変換(太陽電池):35%
  • 衛星での電気エネルギーからマイクロ波エネルギーへの変換:80%
  • 衛星から地上へのマイクロ波エネルギー伝送:95%
  • 地上でのマイクロ波エネルギーから電気エネルギーへの再変換:70%

そのため、太陽光が実際に皆さんの使う電気エネルギーとなるのは約19%です。

Q2. どんな太陽電池が使われているのですか?

A2. 太陽からの光エネルギーは、可視光線(およそ400~700nm)を挟んで、紫外線の300nm程度から赤外線の1400nm以上まで分布しています。従来からある単結晶シリコン太陽電池は、近赤外線の900nm前後に感度のピークをもち、可視光線域での効率が十分ではありませんでした。最近では、発電効率を高めるため、紫外線や可視光線に性能のピークをもつ半導体を組み合わせて多層構造にして、広い波長をエネルギーに変換できる、多接合型太陽電池が注目されています。

Q3.地球の表面を雲などが覆っている場合、マイクロ波は地表に届くのですか?

A3. よほど強い雨が降らない限りは、雲などが覆っている場合でもマイクロ波は地表に届きます。ここでは、宇宙太陽発電での使用が検討されているマイクロ波周波数の、2.45GHzおよび5.8GHzの減衰計算モデルを紹介します。なお、1時間に50mmの雨は滝のように激しく降る雨で、気象庁の統計換算では5年に1回程度の大雨です。

アメリカNASA/DOE(エネルギー省)リファレンスモデルを用いた、周波数2.45GHzでのマイクロ波減衰量
(1) 大気ガス(主に酸素)の吸収による減衰:1.1%程度
(2) 降雨(50mm/時)による減衰:1.6%程度

JAXA 2004モデルを用いた周波数5.8GHzでのマイクロ波減衰量
(1) 大気ガス(主に酸素)の吸収による減衰:1.6%程度
(2) 降雨(50mm/時)による減衰:26%程度

宇宙太陽発電と社会・経済に関する質問

Q1. 宇宙太陽発電衛星が完成したら、衛星の管理はどの国がおこなうのですか?

A1. 宇宙太陽発電衛星が本格的に運用される段階では、現在の火力発電所、水力発電所や原子力発電所などと同様に、民間企業が管理・運営すると考えられます。そのため、特にどの国が管理するというような形にはなりません。ただし、宇宙空間の利用および宇宙空間での太陽エネルギーの利用については、全ての国の利益であること、および技術を持たない開発途上国への配慮のもとに、国際協力による開発と運用を行うことが前提です。したがって、宇宙太陽発電衛星は商用システムではあっても、その開発だけでなく、管理・運営についても、国際的組織や取り決めのもとで行われると考えられます。一つの事例としては、国際衛星通信を管理運用しているインテルサットの方式が参考になります。

Q2. 現在、宇宙太陽発電の研究に取り組んでいる国はどれくらいあるのですか?

A2. 太陽発電衛星は、1968年に米国のピーター・グレーザー博士によって、初めて提案されました。それ以降、米国、欧州、日本で継続的に研究が行われてきましたが、最近では、中国も研究開発に力を入れています。また、宇宙開発に関する国際学術組織である国際宇宙航行連盟の技術委員会の一つに太陽発電衛星をテーマとして扱う委員会があります。日本、中国、米国、欧州各国(フランス、ドイツ、イギリス)からのメンバーで構成され、太陽発電衛星の研究に取り組んでいます。

Q3. 有人でスタッフが宇宙太陽発電衛星に常駐する必要はあるのですか?

A3. 有人でスタッフが宇宙太陽発電衛星に常駐する必要は全く有りません。宇宙太陽発電衛星の運転のための監視や制御は全て地上から行うことができます。実際、宇宙空間のほとんどの衛星や惑星探査機は無人で運用され、監視や制御は地上から行われています。宇宙太陽発電衛星そのものは一辺の長さが1km以上の大きな構造物ですが、通常数m程度の大きさの全く同じ構造をもった脱着可能な部品(モジュールと呼びます)を多数並べて構成されます。宇宙太陽発電衛星の機器のメンテナンスや故障への対応は、地上から遠隔操作されるロボットで、モジュール単位での取り外しや交換により行います。モジュールの寿命は40年で設計しますので、偶発的な故障がない場合でも40年で全てのモジュールを交換する必要があります。モジュールの取り外しや交換を有人で行うことも考えられますが、宇宙空間で有人活動を行うためには人身事故を防止するための安全対策を万全にとる必要があるため、極めて高コストとなり望ましくありません。このため宇宙太陽発電衛星は、無人で運転・メンテナンスできることを前提として設計されます。

Q4. その他の発電による電気との使用コストの差はどのくらいですか?

A4. 通常の電気の発電コストは1kWhあたり数円〜数十円程度です。宇宙太陽発電の発電コストがこれよりも高い場合は、誰も宇宙太陽発電の電力を購入する人はいないので、宇宙太陽発電が実現することはありません。つまり、宇宙太陽発電の発電コストが、その他の発電によるコストとほぼ同じになると予測されることになった時点で、宇宙太陽発電は実現されます。現在の技術で宇宙太陽発電を建設することは可能ですが、その発電コストは現在使用されている各種の発電方法と比較すると、極めて高くなると言わざるを得ません。それは、現在は宇宙空間に物資を輸送するコストや、マイクロ波を作るための半導体のコストが非常に高いためです。将来、宇宙への輸送方法や半導体について低コスト化の研究が進めば、宇宙太陽発電のコストも他の発電方法と同じ程度まで下がると考えられています。
また、エネルギー収支比(建設と運用で必要な入力エネルギーと得られるエネルギーとの比)で言うと、原子力発電の0.3、LNG(液化天然ガス)火力発電の0.3に対して、宇宙太陽発電は5.7と優れています。現状の原子力やLNGは1以下ですが、コストで考えた場合に入力エネルギーが得られるエネルギーよりも安いので、ビジネスとして成り立っています。

Q5. 国から補助金を出して、できるだけ(地上に)太陽光パネルを設置すれば、そこまで宇宙太陽光発電に頼りすぎなくてもやっていけるのではないですか?

A5. 安定した電力を確保するには、複数の電力源を持ち、どれかが不能となった場合でも他の電力源で賄えるように、リスク管理する必要があります。例えば、地上の太陽光パネルを増やして全ての電力需要に応えることは、天候不順などによって発電できないリスクを抱え込むことになります。したがって、地上の太陽光発電だけでなく、風力、地熱、火力、水力、原子力などの他の電力源とのベストミックスが必要となります。この多様な電力源の一つとして、クリーンで安定した電力供給が可能な宇宙太陽光発電が必要と考えています。また、地上太陽光発電は、夜間は発電できません。また、太陽電池面に対する太陽光の入射角度の影響や、さらに天候による影響などがあると、発電効率は著しく低下します。それに対して静止軌道上の宇宙太陽光発電は、一定の発電量が常時見込めるので、同じ面積の地上太陽光発電に比べて約10倍の年間積算発電量が期待できます。

宇宙太陽発電のリスクや懸念

Q1. 隕石や宇宙ゴミ(スペースデブリ)が、ぶつかる可能性ありますか?ぶつかった場合、発電できなくなりますか?

A1. 宇宙太陽発電衛星が運用される静止軌道上では、ほとんどの物体は同じ速度で同じ方向に回ります。したがって、スペースデブリに衝突して壊れる可能性は低いと言えます。一方、技術実証のため低軌道に打ち上げる場合、スペースデブリとの相対速度は平均8km/s程度になります。この衝突では、スペースデブリが1gでも、人間が60km/時で走っている自動車と衝突するのと同じ衝撃が発生します。
ただし、宇宙太陽発電衛星はデブリの衝突などで部分的に故障しても、他の部分に影響がないように設計し、システム上重要な箇所は最悪の事態に備えて、一つが壊れても大丈夫なように予備を載せておきます。よって、小さなスペースデブリが衝突しただけでは、衛星の一部に穴が開くだけで全体として発電できなくなることはありません。大きなスペースデブリや隕石は、軌道が分かっているので、衝突しそうならば、あらかじめ宇宙太陽発電衛星の軌道や姿勢を変える操作をして回避します。

Q2. 部品などが壊れた場合、どのようにして修理・回収するのですか?マイクロ波をいろいろな方向にだすように壊れる可能性がある場合、近寄って回収することが困難になりませんか?

A2. 通常考えられている宇宙太陽発電衛星は、一辺の長さが1km以上の非常に大きな宇宙の構造物ですが、数m程度の大きさの全く同じ構造をもった脱着可能な部品(モジュールと呼びます)から構成されると考えられます。衛星の近くに倉庫の役割を果たす施設を作り、そこに新品のモジュールをたくさん保管しておき、モジュールが故障した時は地上からの指令により、ロボットで新しいモジュールとの交換作業が行われます。この倉庫には、宇宙輸送機によって地上から定期的に新しいモジュールが運び込まれ、壊れたあるいは寿命のきたモジュールは、その輸送機で地上に送られます。宇宙太陽発電衛星からのマイクロ波の密度は太陽光と同程度のエネルギー密度(最大でも平方メートルあたり1kW程度)です。衛星からは交換作業用ロボットを壊すような強力なマイクロ波が出て行くことは設計上ありえませんので、ロボットが衛星本体に近寄りモジュールを回収・交換する場合に問題は発生しません。また、マイクロ波をいろいろな方向にだすような壊れ方をするのは、送電アンテナからマイクロ波がランダムに放射される場合なので極めてまれだと考えられます。このような故障の場合、まずは宇宙太陽発電衛星を停止させ、時間をかけて修理を行います。その後、必要に応じてロボット等での修理を行います。

Q3. 受電アンテナの立ち入り禁止区域でのマイクロ波の強さはどの程度になるのですか?海上にアンテナを作る場合、漁業への影響は考えられますか?

A3. 立ち入り禁止区域でのマイクロ波の強さはシステム設計に依りますが、例えばNASAリファレンスシステムでは受電アンテナ(レクテナ)の中心での最大マイクロ波強度は 23 mW/cm 2 、最近の宇宙太陽発電システム研究では100 mW/cm 2 (太陽光と同程度の強さ)で設計された例もあります。受電アンテナの縁では1 mW/cm 2 (太陽光の1/100程度の強さ)です。さらに受電アンテナの外に保護域を設けるので、その外に居る限りは電波の安全基準である「電波防護指針」の値より、はるかに低くなります。海上に受電アンテナを設置する場合、実際には80%程度の電力が受電アンテナで商用電力に変換される上、海水は電気的には導体に近いものとみなせるため、海水表面での減衰が大きくなり、ほとんどの電力は海水表面で吸収されます。よって、海中生物への影響や漁業への影響はほとんど無いと想定されます。また、漁船の無線通信やレーダは、宇宙太陽発電と使用周波数が異なるので影響はありません。

Q4. バスや電車の中では携帯電話は切るように言われますが、マイクロ波によって心臓病の人への被害があるのではないですか?

A4. 電波の生体への影響については、これまで長年にわたる研究の蓄積があり、それらに基づいて電波の安全基準が定められています。国際的には国際非電離放射線防護委員会のガイドライン、我国でも1990年に総務省(旧郵政省)から示された「電波防護指針」があります。宇宙太陽発電においても、人の立ち入りが考えられるエリアではこれら安全指針を満足するように設計・運営がなされます。また、エリア外では宇宙太陽発電から放射されるマイクロ波は十分弱くなるように設計します。一方、携帯電話など電波利用機器からの電波により、不整脈などの心臓疾患治療に用いられる心臓ペースメーカや植込み型医療機器において誤動作等の影響が発生する場合があります。植込み型医療機器への影響は、生物に及ぼすメカニズムとは異なるため安全指針の対象外となっており、電磁両立性の観点から継続的に調査・研究が行われています。これまでに、各種の電波利用機器から発射される電波が植込み型医療機器等へ及ぼす影響について調査が実施されており、これら調査結果に基づいて、「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器等へ及ぼす影響を防止するための指針」が総務省により取り纏められています。宇宙太陽光発電衛星の実用化においても、同様に慎重な調査が実施され安全な運用がなされると考えられます。

Q5. 渡り鳥などは地球磁場を使って飛行しているのが電磁波によって妨げられてしまうという話がありますが、マイクロ波を伝搬することの自然界への影響はどのように研究がされていますか?

A5. 昆虫や鳥は受電アンテナ付近に自由に入ってくることができるため、これらに対する研究が 1970年代に米国で行われました。鳥やミツバチに実際にマイクロ波を照射した実験が行われ、特に大きな影響はなかったという結論が得られています。しかし、短時間の実験であり、長期的な影響や渡り鳥などの渡り能力などについては調べられていません。渡り鳥は地球の静止磁場を使って、方向を探知すると言われており、マイクロ波よりはるかに低い周波数の電磁波については影響があるという実験結果が2000年ころから報告されるようになりました。しかしマイクロ波のような高い周波数についての研究報告はまだありません。宇宙太陽発電衛星のマイクロ波強度の強い領域は受電所付近の数km四方程度の領域に限られます。その上空で一時的に渡り能力への悪影響があっても、その領域を離脱すれば影響がなくなるので、渡り鳥の渡り経路に対する影響は深刻なものとはならないと想定されます。いずれにせよ今後の継続的な研究が必要でしょう。またマイクロ波の植物への影響を調べるため、かいわれ大根やマメ科植物への照射実験が日本や米国で行われました。これらの報告によれば、宇宙太陽発電システムのマイクロ波強度であれば、植物への目立った影響はないことが報告されています。ただし、渡り鳥に限らず人間を含む動植物へのマイクロ波の影響は、社会的に認められるような、系統的で長期にわたる実験により評価される必要があります。